最近、「マルチモーダルAI」という言葉、ニュースや仕事関連の話題で耳にする機会が増えていませんか?
「なんとなくすごそうだけど、具体的に何が違うの?」
「GPT-4oとか新しいのが次々出てくるけど、結局何ができるようになったの?」
AIの進化は目覚ましく、新しい専門用語もどんどん登場するので、正直ついていくのが大変…と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
でも、ご安心ください。基本的なポイントさえ押さえれば、AIが私たちの仕事や生活にどう関わってくるのか、もっとクリアに見えてきます。
この記事では、特に注目されている「マルチモーダルAI」と、これまで主流だった「特化型AI(シングルモーダルAI)」の違いについて、皆さんもよくご存知のChatGPTの進化を例にとりながら、できるだけ分かりやすく、そして少しだけ未来を想像できるようなワクワク感も込めて解説していきます。
AIの基本をサクッと理解して、日々の情報収集やビジネスシーンでの「なるほど!」に繋げていきましょう。
まずは基本の「キ」:「モーダル」って一体なんだろう?

「マルチモーダル」を理解する最初のステップは、「モーダル(Modality)」という言葉を知ることです。
難しく考える必要はありません。これは、AIが情報を認識したり、表現したりする際の「情報の種類や形式」のことだと考えてください。
私たちが普段、目(視覚)でモノを見たり、耳(聴覚)で音を聞いたり、言葉(言語)でコミュニケーションをとったりするように、様々な感覚=情報の形式(モーダル)を使っていますよね。
AIにとっての主なモーダルは、以下のものが挙げられます。
- テキスト(文字情報): 文章、チャット、コードなど
- 画像(静止画情報): 写真、イラスト、図表など
- 音声(音の情報): 会話、ナレーション、音楽など
- 動画(映像と音の情報): 動きのある映像とそれに付随する音声
これらの情報の種類(モーダル)を、AIがいくつ扱えるかによって、そのAIのタイプが変わってくるのです。
「特化型AI(シングルモーダルAI)」:一つの道を究める職人タイプ
まず、これまで多くの場面で活躍してきたのが「シングルモーダルAI」です。「シングル」という名前の通り、これは「単一(ひとつ)のモーダル」だけを専門に扱うAIのことを指します。
特定の情報形式に特化しているため、「特化型AI」とも呼ばれます。 まるで、特定の分野を深く追求する職人さんのようなイメージですね。
具体的には、以下のようなAIがシングルモーダルAIに分類されます。
- テキスト特化AI: 文章の作成、要約、翻訳など(初期のChatGPTなどが該当)
- 画像認識AI: 画像に写っているものを特定したり、分類したりする
- 音声認識AI: 話し言葉をテキストに変換する(スマートスピーカーの聞き取り部分など)
これらのAIは、それぞれテキスト、画像、音声という「単一の入力情報」に基づいて処理を行います。
例えば、皆さんが日常業務で使っているかもしれないツールの中にも、シングルモーダルAIの技術は活かされています。
文書作成ソフトのスペルチェックや文章校正機能は、テキスト情報だけを対象にした典型的な例です。
また、経費精算システムでレシート画像をアップロードすると、日付や金額を自動で読み取ってくれる機能がありますが、これも画像という単一モーダルに特化したOCR(光学的文字認識)技術、つまりシングルモーダルAIの一種と言えます。
特定のタスクにおいては、その情報形式に最適化されているため、高い精度と効率を発揮するのがシングルモーダルAIの強みです。一つのことを深く、正確にこなすプロフェッショナル、というわけですね。
ちょっとした疑問:入力が画像で、出力がテキストの場合は?
ここで、「画像を入力したら、その説明文(テキスト)が出てくるAIはどうなの?」という疑問が湧くかもしれません。
例えば、写真を見せると「青い空と白い砂浜が広がるビーチ」のようにテキストで説明してくれるAI。これは一見、画像とテキストの両方を扱っているように見えます。
しかし、この場合もAIが「入力」として受け取っている情報は「画像」という1種類のみです。
AIのタイプ分けでは、「入力される情報の種類」が基準となります。 そのため、入力が1種類(この例では画像のみ)であれば、たとえ出力が異なるモーダル(テキスト)であっても、それは「シングルモーダルAI」に分類されるのです。
分類 | 入力情報の種類 | 主な例 | ポイント |
---|---|---|---|
シングルモーダルAI | 1種類 | テキスト→テキスト、画像→テキスト、音声→テキスト | 入力が1種類ならシングル! |
マルチモーダルAI | 2種類以上 | テキスト+画像→テキスト、画像+音声→何か | 複数の情報を同時入力 |
このように、入力が何種類あるか? という点が、まず最初の大きな違いになります。
「マルチモーダルAI」:複数の情報を使いこなす万能選手
さて、いよいよ本題の「マルチモーダルAI」です。 これは、「マルチ(複数)のモーダル」を同時に入力として受け取り、それらを統合的に処理できるAIを指します。
シングルモーダルAIが一つの分野の専門家だとしたら、マルチモーダルAIは様々な分野の知識やスキルを組み合わせて活躍する、万能選手のような存在と言えるでしょう。
例えば、こんなことができるのがマルチモーダルAIです。
- 画像とテキストを同時理解: レシピのテキストと完成写真を見せて、「この料理のカロリーは?」と質問に答える。
- 音声と画像を連携: 会議の音声を聞き取りながら、画面に映し出された資料(画像)の内容も踏まえて議事録を作成する。
- 動画の内容を要約: 長いプレゼンテーション動画を見て、重要なポイントをテキストでまとめる。
このように、複数の異なる種類の情報を相互に関連付けながら理解し、より複雑で、より現実に近い状況に対応できるのが、マルチモーダルAIのすごいところなのです。
この「複数の情報を統合して理解する」能力は、私たちの仕事のやり方を大きく変える可能性を秘めています。
例えば、営業担当者が顧客とのオンライン商談を録画したとします。マルチモーダルAIは、商談中の顧客の表情(画像)や声のトーン(音声)、そして会話内容(テキスト)を統合的に分析し、「顧客はこの提案の〇〇部分に特に興味を示していた」「価格説明の際に少し懸念の表情が見られた」といった、人間が見落としがちな細かなニュアンスまで捉えてフィードバックしてくれるかもしれません。
あるいは、製品の設計図(画像)と、それに関する技術文書(テキスト)、そしてユーザーからのフィードバック音声(音声)をまとめてAIに入力し、「この製品の改善点はどこか?」といった、より高度な分析をさせることも考えられます。
このように、複数の情報源から本質を掴み出す能力は、これまで人間にしかできなかったような、より複雑な意思決定や問題解決の場面での活躍が期待されているのです。
ChatGPTの進化で見る!
AIがマルチモーダルaiになっていく様子

この「シングルモーダル」から「マルチモーダル」への進化の流れは、皆さんも一度は使ったことがあるかもしれないChatGPTのバージョンの変遷を見ると、非常に分かりやすいです。
GPT-3.5時代:テキストが得意な専門家
初期のChatGPT(GPT-3.5というモデルがベース)は、まさにテキスト処理に特化したシングルモーダルAIでした。
文章を書いたり、要約したり、質問に答えたりするのは得意でしたが、画像の内容を読み取ったり、音声で直接会話したりすることはできませんでした。 知識も少し前の情報(2021年9月頃まで)に限られていましたね。
GPT-4時代:画像も理解!マルチモーダルへの大きな一歩
さて、GPT-3.5の次に登場したGPT-4は、AIの進化における重要な転換点となりました。
一番大きな変化は、ついに「画像」を入力情報として理解できるようになったことです。
これにより、例えば旅行先で撮った写真を見せて「この建物は何?」と質問したり、報告書にある複雑なグラフの画像をアップロードして「このデータの要点は?」と分析を依頼したり、といった使い方が可能になりました。
これは、AIがテキストという文字情報だけでなく、目で見る「視覚情報」も扱えるようになったということであり、より人間に近い情報処理能力を持つ「マルチモーダルAI」への大きな、大きな一歩だったと言えます。
ただ、このGPT-4の段階では、まだ”発展途上”な部分も残っていました。 いくつかポイントを挙げると…
- できることの限界: 画像の内容を「理解」はできても、その画像を「編集・加工」するような指示、例えば「写真の猫をもっと笑顔にして」といったリクエストには、まだ直接応えることはできませんでした。あくまで分析や説明が中心だったのです。
- 音声対話の課題: 音声を聞き取る能力(音声認識)自体は非常に高性能なエンジン(Whisper)が使われていましたが、人間とスムーズに会話するには、応答に少し時間がかかり、テンポの良い自然なやり取りはまだ難しい状況でした。
- 機能連携の壁: 新しく画像を「生成」する機能も搭載されましたが、これは内部的には「DALL·E 3」という別の専門エンジンを呼び出して実行する形でした。つまり、GPT-4自身がすべてをシームレスに処理するのではなく、まだ別々のツールを上手く連携させている、という段階に近かったのです。
とはいえ、これらの制約があったとしても、GPT-4がAIの世界に「画像」という新しい扉を開き、マルチモーダル化の流れを決定づけた功績は非常に大きいものでした。
まさに、現在のGPT-4oのような高度なマルチモーダルAIへと繋がる、重要な土台を築いたバージョンと言えるでしょう。
GPT-4o時代:「o=omni(すべて)」の名を持つ統合型へ
そして、2024年に登場した最新モデル(※執筆時点)のGPT-4oは、「o=omni(オムニ:すべてを意味する)」という名前が示す通り、マルチモーダル機能が飛躍的に向上しました。
テキスト、画像、音声といった複数のモーダルを、これまで以上にスムーズに、そして高速に、一つのモデルの中で統合的に扱えるようになったのです。
これにより、例えばこんなことが可能になりました。
- スマホのカメラで街の風景を映しながら、「この建物は何?」と音声で質問すると、AIが画像と音声を同時に理解して答えてくれる。
- 音声で会話している途中で、「こんな感じのイラストを描いて」と口頭で指示し、その場で画像を生成してもらう。
- 英語で話しかけると、ほぼリアルタイムで日本語に翻訳して音声で返してくれる。
まさに、複数の感覚(モーダル)を人間のように組み合わせて情報を処理する能力が格段に進化したと言えます。
GPT-4oの「o(omni)」が示す統合性は、単に複数のモーダルを扱えるようになっただけでなく、その「連携のスムーズさ」と「応答速度」に大きな特徴があります。
音声対話では、人間が話してからAIが応答するまでの遅延(レイテンシー)が平均232ミリ秒と、人間同士の会話に匹敵するレベルまで短縮されました。これにより、リアルタイムでの通訳や、感情のニュアンス(例えば、楽しそうな声色や、ため息など)を読み取って応答を変えるといった、より自然なコミュニケーションが可能になっています。
画像生成においても進化が見られます。単に画像を生成するだけでなく、生成された画像に対して「この部分の色を変えて」「もっと笑顔にして」といった対話形式での「追編集」が可能になりました。これは、内部でテキスト、画像、音声の処理がより緊密に連携しているからこそ実現できた機能です。
さらに、画像内に文字を描き込む際の精度も向上しており、例えばプレゼン資料のデザイン案をAIに作らせる際に、より自然な日本語テキストを画像内に含めることも期待できるようになってきました。
ただし、無料プランでは利用回数に制限があったり(例えば3時間あたり20回までなど)、生成した画像を商用利用する際にはライセンスの確認が必要だったりと、利用上の注意点も存在します。これらの制限事項も理解した上で活用していくことが大切です。
モデル | 主な特徴 | マルチモーダル対応 | 画像生成 | リアルタイム情報 |
---|---|---|---|---|
GPT-3.5 | テキスト処理特化 | テキストのみ | 非対応 | × |
GPT-4 | 画像入力に対応 | 画像解析、音声入力(限定的) | 外部連携 (DALL·E 3) | △ (Bing連携) |
GPT-4o | テキスト・画像・音声を統合的に処理 | ネイティブ対応、高速応答 | ネイティブ統合、編集も強化 | ◎ (強化版Bing) |
(注:機能や性能は常にアップデートされています)
このように、ChatGPTの進化の歴史は、AIがシングルモーダルからマルチモーダルへと、扱える情報の種類を増やし、それらを統合する能力を高めてきた歴史そのものと言えるでしょう。
「マルチなのに特化型しかいない?」の疑問を解き明かす

ここで、冒頭で触れた「マルチモーダルAIと言っても、結局は画像生成専門のAIとか、音声認識専門のAIとか、特化型の集まりなんじゃないの?」という疑問について、もう少し深掘りしてみましょう。
この感覚は、ある意味で正しいと言えます。
最新のGPT-4oのような統合型マルチモーダルAIであっても、その内部では、画像生成には「DALL·E 3」、音声認識には「Whisper」といった、それぞれの分野で最高レベルの性能を持つ「特化型」の技術やエンジンが、巧みに連携して動作していることが多いのです。
なぜなら、それぞれのモーダル(画像、音声、テキストなど)を高い精度で処理するためには、長年にわたって研究開発が重ねられてきた専門的な技術が不可欠だからです。
マルチモーダルAIは、これらの高度に専門化された(特化した)機能やエンジンを、オーケストラの指揮者のように巧みに「統合」し、連携させることで、全体として複数のモーダルをスムーズに扱えるシステムを構築しています。
ですから、「マルチモーダル」という大きな枠組みの中で、様々な「特化型」の得意技が結集して、より高度な能力を発揮している、とイメージすると分かりやすいかもしれません。
個々の機能は特化していても、それらを柔軟に組み合わせて、人間のように複数の情報を扱えるシステム全体が「マルチモーダルAI」と呼ばれるものなのです。 決して「特化型しかいない」のではなく、「特化型の強みを活かして統合されている」と捉えるのが実態に近いでしょう。
ChatGPT(LLM)のマルチモーダル化!
まとめ:AIの進化と私たちの未来
今回は、「マルチモーダルAI」と「特化型AI(シングルモーダルAI)」の違いについて、ChatGPTの進化を例にご紹介しました。
- シングルモーダルAI(特化型AI): テキストだけ、画像だけ、のように1種類の情報形式を専門に扱う職人タイプ。
- マルチモーダルAI: テキスト+画像+音声など、複数の情報形式を統合的に扱える万能選手タイプ。
この違いを理解しておくと、新しいAIサービスが登場したときに、「これはどんな情報(モーダル)を扱えるのかな?」「どんなことが得意なのかな?」と、その特徴を捉えやすくなるはずです。
AIは、テキストだけの世界から、私たちが普段接しているのと同じように、画像や音声を含む、より豊かで複雑な情報を扱えるように進化し続けています。
この進化は、私たちの仕事の進め方や、日々の生活に、今後さらに大きな変化をもたらしていく可能性があります。 例えば、会議の録画データから自動で議事録と要約が作られたり、自分の好みに合わせた洋服のデザインをAIと対話しながら作ったり、といったことが当たり前になるかもしれません。
もちろん、AIはまだ発展途上の技術であり、課題も残されています。 しかし、その可能性を正しく理解し、上手に付き合っていくことで、私たちの能力を拡張し、より創造的な活動に時間を使うための、心強いパートナーになってくれるはずです。
もちろん、AI技術の進化は、私たちに便利な側面だけでなく、仕事のあり方や社会の構造に変化をもたらす可能性もはらんでいます。
だからこそ、いたずらに恐れたり、逆に過度な期待を寄せたりするのではなく、その動向を冷静に見つめ、正しく理解し、自分たちの仕事や生活にどう活かせるかを考えていく姿勢が、これからのビジネスパーソンには求められるのではないでしょうか。
AIは魔法の杖ではありませんが、私たちの知識や創造性を増幅してくれる強力なツールになり得ます。定型的な作業をAIに任せることで生まれた時間を、より人間的な思考やコミュニケーション、新しい価値の創造に使う。そんな未来がすぐそこまで来ているのかもしれません。
そのためにも、まずはAIの「今」を知ることから始めてみませんか?
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