「機械学習」とは、コンピュータが大量のデータを分析し、自動的にルールや予測を作り出す『技術』です。その中でも特に高度で複雑な処理を可能にした技術が、「ディープラーニング」です。ディープラーニングは人間の脳の働きをモデルにして作られており、機械学習の技術の一種です。
そもそもAI(人工知能)という概念について文部科学省の令和6年版 科学技術・イノベーション白書でも「AIやAIシステムについては、各国政府・国際機関等はそれぞれが公表文書や法令において、その用語の意味を解説していますが、現時点で確立された統一的な定義はありません。」としており、明確な定義はない状況です。

よって「AI(人工知能)」と呼ばれる物には、様々な技術が内包しており、その中でも核となる技術が機械学習とディープラーニングとなります。
機械学習とディープラーニングはあらゆる場面で活用されています。こういった技術によって医療現場における画像診断や自動運転車を実用化したり、Amazonが次の商品をおすすめしたりしています。
機械学習とディープラーニングには一定の定義と違いがあり、ビジネスの現場で使える場面も異なります。機械学習とディープラーニングについて学び「この場合ではどちらが望ましいのか?」「この目的には何が必要か?」を考える材料にしてもらえればと思います。
ディープラーニングと機械学習

冒頭でお伝えしたようにディープラーニングは機械学習の一部です。機械学習の概念や技術を進化させ、よりプログラムが自律的に読み込んだデータを把握し、ルールやモデルを進化させることができます。
機械学習を進化させたディープラーニングでは、人間の脳の処理を参考にしたニューラルネットワークを採用しており、人間が対象を認識・理解するプロセスに似せて、読み込ませた対象を理解していくことが可能です。
例えば、猫の画像を大量に読み込ませまる。皆さんもスマホやデジカメの広告で聞いたことがあるかもしれませんがピクセルという画素の集合で画像はできています。プログラムも同様で読み込んだ猫の画像をピクセル(画素)で読み込み、ここが「直線だな」「曲線だな」・・・と理解していきます。
この時の「猫の特徴」の学習の仕方が機械学習とディープラーニングの違いに大きくかかわってきます。
まずは「機械学習とは何か?」「ディープラーニングとは何か?」をなるべくわかりやすく説明させていただき、そのうえで「機械学習とディープラーニングの違い」について整理させていただきたいと思います。
機械学習とは?機械学習の仕組
それではまず、機械学習について見ていきましょう。「AI(人工知能)」と共に「機械学習」や「ディープラーニング」という言葉を耳にする機会は増えましたが、「いったい何なの?」を整理していきたいと思います。
機械学習とは?
機械学習とは、コンピュータがデータからパターンやルールを学習し、そのパターンを基に予測や判断を行う技術のことです。
機械学習のコンセプト自体は新しいものではなく、これまでの歴史で何度かあったAIブームの頃からありました。しかし近年、コンピュータの処理能力が飛躍的に向上したこと、更にインターネット上に大量のデータがあるようになったこと等、いくつかの要因により、機械学習が実用可能な技術となり、現在のAI進化の中核を担うまでになっています。
機械学習の仕組
機械学習は大量のデータをAI(人工知能)にあたえます。すると、そのデータから、ルールや法則を人工知能が自分で見つけ出します。そうして、学習を終えた人工知能に新たなデータを与えると、学習したルールを使って、自ら判断や推測を行います。
ここが機械学習とディープラーニングの違いで難しいところで、先に御紹介したように「ディープラーニングは機械学習の一部」です。よって、機械学習の定義がディープラーニングの定義や特徴と重複しているように見え、「で、結局なんなの?」という疑問が拭えないのだと思います。
ざっくりとした整理ですが
- ディープラーニングは機械学習の一部
- 学習する対象の特徴やルールを「機械学習は人間が教える」「ディープラーニングは自ら学ぶ」
こんな整理になると考えています。
ディープラーニングとは?ディープラーニングの仕組
ディープラーニングとは?

ディープラーニング(深層学習)は、人工知能(AI)の一分野である機械学習技術の一つです。
ディープラーニングを「多層ニューラルネットワークによる特徴量の自動抽出技術」と定義しています。この技術は、従来の機械学習では必要だった人間による特徴量設計を不要にし、大量データから自動的にパターンやルールを発見する点が特徴です。
膨大なデータを基に、コンピューターが自動でデータの特徴やパターンを学習し、判断や予測を行います。この技術の核となるのは「ニューラルネットワーク」と呼ばれるアルゴリズムで、人間の脳神経回路を模倣した構造を持っています。
例えば、製造業では株式会社キューピーではディープラーニングを活用した、画像解析による良品選別のメカニズムを導入しています。従来の原料検査装置では、色差などの画像処理で不良品のパターンを学習させる手法が一般的です。
しかし、変色や変形、さまざまな夾雑物など不良のパターンが無限にあることから、高い精度を出すのが困難でした。
一方、キユーピーが開発した原料検査装置では、発想を逆転し、AIに良品のパターンを学習させます。これにより、「良品以外」をすべて「不良」として検出することが可能になり、精度が飛躍的に向上します。
異常検知システムにディープラーニングを導入し、工場内で発生する異常を早期に検知するシステムを構築しました。この結果、対応時間が短縮されるとともに従業員の負担も軽減されています。

出典:キユーピー株式会社
ディープラーニングの仕組
ディープラーニングは、多層構造を持つニューラルネットワーク(ディープニューラルネットワーク:DNN)を用いてデータを学習します。このネットワークは主に以下の3つの層で構成されています
- 入力層:データ(例:画像や音声)を受け取る部分
- 隠れ層:データ処理と特徴抽出を行う部分
- 出力層:処理結果(例:分類や予測)を出力する部分
隠れ層が多層化されている点が従来のニューラルネットワークとの大きな違いです。各層では「重み付け」や「活性化関数」を通じてデータが次々と処理され、より高度な特徴が段階的に抽出されます。この多層構造により、大量かつ複雑なデータからも高精度な分析が可能となります
例えば、自動車業界ではNauto Japan合同会社が開発したドライブレコーダー「ナウト」がこの仕組みを活用しています。ディープラーニングによる画像認識技術で脇見運転や煽り運転を検知し、リアルタイムでドライバーに警告する機能を実現しています。

機械学習とディープラーニングの違いとは
機械学習とディープラーニングは、どちらも人工知能(AI)の一部としてデータを分析し、パターンを発見する技術ですが、その仕組みや適用範囲に大きな違いがあります。先ほどもお伝えした通り、ディープラーニングは機械学習の一分野であり、特に「ニューラルネットワーク」と呼ばれる多層構造を活用する点が特徴です。
機械学習は幅広いアルゴリズムを含む技術で、データの特徴量を人間が設計し、それを基にモデルが学習します。例えば、スパムメールの判定では「特定の単語が含まれているか」などのルールを人間が設定し、そのルールに従ってアルゴリズムが動作します。一般的な用途としては、売上予測や異常検知、顧客セグメンテーションなどがあります。
一方で、ディープラーニングは大量のデータを処理しながら特徴量を自動抽出する技術です。ニューラルネットワークの多層構造によって、生データから複雑なパターンを学習し、高度な認識や予測を行います。例えば、自動運転車では道路標識や歩行者の検出にディープラーニングが使われています。この技術は画像認識や音声認識、自然言語処理など、人間が特徴量を設計しにくい分野で特に威力を発揮します。逆に言えば、特徴量を学習するだけのデータ量が必要になるので機械学習よりもデータ量が多くなる、開発コストが大きくなると言われています。
両者の違いを具体例で示すと、製造業における異常検知システムでは、機械学習は事前に設定された「異常の基準」に基づいて動作しますが、ディープラーニングはその基準自体をデータから自動的に学習します。先のキューピーの事例では「AIに良品のパターンを学習させ、良品以外」をすべて「不良」として検出することが可能になり、精度が飛躍的に向上した」と紹介されていました。
このように、機械学習は比較的単純なタスクや少量データで効果的である一方、ディープラーニングは大量データと複雑なタスクに向いているという違いがあります。どちらも適切な場面で活用することで、その真価を発揮します。
機械学習の種類
機械学習は、人工知能(AI)の一部として、コンピューターがデータからパターンを学び、予測や判断を自動で行う技術です。
文部科学省による定義では、機械学習は「データの特徴を解析し、規則性を見つけ出す技術」とされており、ディープラーニングはその中でも特に高度な手法です。
機械学習全般では、人間がデータから重要な特徴(特徴量)を設計し、それに基づいてアルゴリズムが学習します。一方で、ディープラーニングはニューラルネットワークと呼ばれる多層構造を利用しており、特徴量の設計を自動化する点が大きな特徴です。この違いにより、ディープラーニングは画像認識や自然言語処理など、人間が特徴量を設計しづらい分野で特に威力を発揮します。
機械学習には主に「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」の3つの種類があります。それぞれ異なる目的や仕組みを持ち、適用される場面も異なります。例えば、教師あり学習は明確な正解データがある場合に適しており、教師なし学習は正解データがない場合にデータの構造を探るために使用されます。一方で強化学習は試行錯誤を通じて最適な行動を見つける手法です。
それぞれ見ていきましょう。
機械学習の種類
教師あり学習とディープラーニングの関係
教師あり学習は、ラベル付きデータ(正解が明示されたデータ)を用いてモデルを構築する手法です。この方法では、「入力」と「出力」の関係性を学び、新しいデータに対して予測や分類を行います。例えば、住宅価格予測では、「土地面積」「築年数」「駅からの距離」などの特徴量と、それに対応する住宅価格というラベル付きデータを用いてモデルを作成します。
このような手法では、人間がどの特徴量が重要かを設計したほうが開発コストが少なく済む場合がおおいです。
一方でディープラーニングの場合、この「特徴量設計」をコンピューターが自動的に行います。ニューラルネットワークの多層構造によって、大量のデータから重要な特徴を段階的に抽出し、高精度な予測や分類が可能になります。この特性により、大量データと複雑なタスクへの適用が容易になります。
機械学習の種類
教師なし学習とディープラーニングの関係
教師なし学習は、ラベルなしのデータから共通点や構造を見つける手法です。この方法では、「正解」が与えられないため、データ内の隠れたパターンやグループ化(クラスタリング)などに焦点が当てられます。例えば、市場調査で顧客層を分類する際には、この手法が有効です。
教師なし学習は特に未知の領域で役立ちます。例えば、小売業界では顧客属性や購買履歴からセグメント分け(顧客クラスタリング)を行い、それぞれのグループに最適なマーケティング施策を実施しています。また、自動車業界では車両センサーから得られる膨大なデータから異常パターンを検出し、安全性向上につなげています。
ディープラーニングも教師なし学習に応用できますが、その際にはニューラルネットワークによる高度なパターン認識能力が活用されます。これにより、人間が見落とすような微細なパターンも検出可能となり、不良品検査や医療画像解析などで成果を上げています。
機械学習の種類
強化学習とディープラーニングの関係
強化学習は試行錯誤によって最適な行動方針(ポリシー)を見つける手法です。この方法では、「報酬」を最大化するためにコンピューターが自ら行動し、その結果から改善点を見つけていきます。ゲームAIやロボット制御、自動運転など、高度な意思決定が必要な場面で特に有効です。
強化学習は、自律的な判断能力が求められる分野で多く採用されています。例えば、自動運転車では道路状況や交通ルールに基づき、安全かつ効率的な運転方法を模索します。
近年では、ディープラーニングと強化学習を組み合わせた「深層強化学習」が注目されています。この技術は、自動運転やロボット制御など、高度な意思決定タスクで活用されています。Google DeepMind社のAlphaGoはその代表例であり、この手法によって囲碁AIとして人間チャンピオンに勝利しました。
【メモ】ディープラーニングは機械学習の一部ですが、その高度な能力によって、多くの分野で新たな可能性を切り開いています。それぞれの特性を理解し適切に使い分けることが重要です
ディープラーニングアルゴリズムの種類
ディープラーニングは様々なアルゴリズムを活用して複雑なデータパターンを学習します。
主要なディープラーニングアルゴリズムには、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、リカレントニューラルネットワーク(RNN)、長短期記憶ネットワーク(LSTM)、生成的敵対ネットワーク(GAN)、オートエンコーダー、トランスフォーマーネットワーク、深層信念ネットワーク(DBN)、制限ボルツマンマシン(RBM)などがあります。
これらのアルゴリズムはそれぞれ特定のタスクや問題に対して優れた性能を発揮します。
畳み込みニューラルネットワーク
CNNは、主に画像や動画といったグリッド状のデータを処理するために設計されたニューラルネットワークです。CNNは、畳み込み層を使用して画像からエッジやテクスチャなどの特徴を自動的に抽出します。この機能により、手動での特徴エンジニアリングが不要になります。
CNNは従来の機械学習アルゴリズムと異なり、手動の特徴エンジニアリングを必要とせず、大規模に特徴を自動抽出する能力を持っています。畳み込み層によって位置、向き、スケール、変換に関係なくパターンや特徴を識別・抽出できる平行移動不変性を持っています。
CNNの応用分野
- 画像・動画認識:顔認識や自動コンテンツキュレーションなどのセキュリティシステム向上に活用
- 自律走行車:道路標識や障害物認識など動的な環境刺激の処理
- ヘルスケア画像:がんなどの早期発見を可能にする医療画像の正確な分析
- 小売・Eコマース:購買行動を分析し、パーソナライズされた商品推奨を生成
- 産業オートメーション:品質管理や予測メンテナンスの改善
リカレントニューラルネットワーク
リカレントニューラルネットワーク(RNN)は、テキスト、音声、時系列データなどの順序が重要な連続データを処理するために設計された深層学習アルゴリズムです。
RNNは、再帰的な接続を持ち、あるタイムステップの出力が次のタイムステップの入力としてネットワークにフィードバックされます。隠れ状態(hidden state)と呼ばれるメモリを維持し、各タイムステップで現在の入力と前の隠れ状態に基づいて更新されます。過去の入力から学習し、その知識を現在の処理に組み込むことができます。
RNNの応用分野
- 自然言語処理(NLP):言語モデリング、機械翻訳、感情分析などのタスクに貢献
- 時系列分析と予測:株式市場予測、天気予報、需要予測など
- 音声・音声処理:音声認識、話者識別などの向上
- 画像・動画分析:画像キャプション生成、物体追跡、行動認識
- 音楽生成:リズム学習や音楽作曲
- 手書き認識:つながった手書き文字の認識
近年では、再帰性ではなく自己注意メカニズムに依存するトランスフォーマーが、特に自然言語処理の多くのシーケンス処理タスクで主要なアーキテクチャとなっています。
未来の原動力となるデータ
AIの発展において、データはその中心的な役割を果たしています。機械学習(ML)やディープラーニング(DL)のモデルは、膨大な量のデータを必要とし、その質がモデルの性能を左右します。例えば、MLでは50~100データポイントが必要とされる一方、DLでは数千のデータポイントが必要です。これにより、AIシステムはより正確な予測や意思決定を行うことが可能になります。
データポイントとは、単一の情報や観測値を指す概念であり、広範なデータセットの中に含まれる個々の要素です。例えば、ある商品の価格、特定の時点での気温、またはウェブページへの訪問者数などがデータポイントに該当します。これらは統計や分析の基礎となる単位であり、数値やテキスト、画像など多様な形式で表現されます。
データはAIのスケーラビリティを支える要素でもあります。適切に整理された高品質なデータは、異なる業界やユースケースにわたるシステムの適用を容易にし、企業にとって競争優位性をもたらします。例えば、製造業ではセンサーから得られるリアルタイムデータを活用して、生産効率の向上やコスト削減が実現されています。
まとめ|AIで使われる機械学習とは?ディープラーニングとの違い
機械学習は、コンピュータが大量のデータからパターンやルールを学習し、予測や判断を行う技術です。
その中でもディープラーニング(深層学習)は、人間の脳を模倣した多層構造のニューラルネットワークを用い、特徴量の自動抽出を可能にした高度な手法です。従来の機械学習では、人間がデータの特徴量を設計する必要がありましたが、ディープラーニングではコンピュータが自ら特徴を学習します。
例えば、製造業ではキユーピーがディープラーニングを活用し、良品のパターンを学習させることで、不良品を高精度に検出するシステムを導入しています。また、自動車業界ではNauto Japanがディープラーニングによる画像認識技術を用いて、脇見運転や煽り運転を検知し、リアルタイムでドライバーに警告するドライブレコーダー「ナウト」を開発しています。
このように、機械学習とディープラーニングは、データの特徴抽出方法や適用範囲に違いがあり、目的に応じて適切な手法を選択することが重要です。